きみを死なせないための物語 宇宙考証の解説
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epi.33-35

Astronomia Nova
©吟鳥子(秋田書店)

33-35.たくさんまたせてごめんなさい(たまご)

第32話の解説を公開した3ヶ月前には「3ヶ月もあるんだから」なんて思ってましたが,第8巻発売までに第7巻(第35話まで)の解説ができなかったことをお詫び致します.

第33話~第35話では激しい心情が描かれます.一方で宇宙考証的事項は少ないため,ここでは3話分をまとめさせて頂きました.

33-35.1.Astronomia Nova

第33話の表紙でアラタが抱えている本はヨハネス・ケプラー著「Astronomia Nova(邦訳「新天文学」)」です.

ケプラーは非常に優れた数学使いで幅広い分野で数多くの業績を挙げていますが,その一つとして,それまでの惑星の動きに関する膨大な観測データから惑星の運動を表す非常にシンプルな法則を発見しました.

その法則は「ケプラーの法則」と呼ばれ,3つの法則(第1法則:楕円軌道の法則,第2法則:面積速度一定の法則,第3法則:調和の法則)から成ります.ケプラーの法則は今も,惑星や宇宙機の運動の基本として使われています.

「Astronomia Nova」では第1法則と第2法則が発表されました.その後,1619年になって第1法則と第2法則を洗練させた上で「Harmonice Mundi(邦訳「宇宙の調和」)」にて第3法則を発表しました.

ケプラーの法則については,一般の方向けにもいろいろな解説がなされているのでぜひお読み頂ければと思います.ここでも第19話にて簡単に紹介しています.

33-35.2.背景にもご注目!(2)

この作品の何がスゴイかって,第26話でも述べさせて頂きましたが,勿論,登場人物の表情や挙動,心情など非常に豊かに繊細に描かれているのですが,施設や宇宙などの背景が徹底して描き込まれているところです.

これはもう吟先生の一切の妥協なきリアリティの追求,中澤先生の極めて豊かな知識と表現力の為せる業です.

これについて著者が最も驚愕したのが,第26話でラクリモサがアラタを拷問している背景で,アングルラックに長穴が空けられていたことと天井にテルハが描かれていたことです.こんなの,別に描かなくても全体的には問題とならないことでしょう.

でも先生方は描いた!

僭越ながら言わせて頂けるならば,私が本作の宇宙考証のお手伝いをさせて頂いているのは,先生方のこのような徹底した職人的追求に惚れているからです.

背景にもご注目!(2)
©吟鳥子(秋田書店)

例えば第33話では,ターラの診察室のモニターにはDNAの二重らせんが映っていますし,その次のページでは議論するアラタ,シーザー,ルイの後ろにVASIMRの構造があります.

本作では,その場所ならば当然あるであろうモノが,さりげなく,しっかりといつも描かれています.

33-35.3.リファービッシュ

リファービッシュとは,古くなったものや故障したものを修理したり部品交換したりして,新品同等又は新品に準ずる状態に再生させることです.

VASIMRはその推進力をプラズマの挙動で得ますが,そのためにはプラズマを生成して,閉じ込めて,加熱して,加速する必要があります.これらは電線やコイル(ソレノイド)に大電流を流したり,それによって生じる磁場を利用したりします.これは電線やコイルを高温にし,劣化させます.また,不純物は多かれ少なかれ混入していて,使用していなくても長期間に渡って腐食を進行させることもあります.

リファービッシュ
©吟鳥子(秋田書店)

このような劣化,腐食が見られたことから,長らく作動させていないVASIMRには大々的な「リファービッシュ」が必要だと,ジラフは判定しました.

なお日本語では「リファービッシュ」と言われますが,英語では「refurbishment」となります.