きみを死なせないための物語 宇宙考証の解説
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epi.36

大量絶滅
©吟鳥子(秋田書店)

36.地球と生命

キュヴィエ博士による地球の現況報告,アジアによる生命とその進化への期待…地球と生命について語られる一話です.

36.1.地球のこと

地球の歴史上には大小多くの絶滅がありました.

その中でも全地球規模のものを「大量絶滅」と呼びます.

大量絶滅は地質時代の最上位の区分である冥王代太古代原生代でも起こったことは確実と見られていますが,地質学的な確証以上のものは得られていないため推測となります.

一方,現代も含む顕生代においては,過去5回の大量絶滅(ビッグ・ファイブ)のあったことが明らかになっています.

(顕生代であるカンブリア紀にも大量絶滅が発生していますが,ビッグ・ファイブには含められていません.)

白亜紀末のものは有名で,全ての生物種の70%が絶滅したと考えられており,恐竜もこのときに絶滅しました.

地球の歴史上,最大の大量絶滅はペルム紀末のもので,このときは海洋生物の96%,全生物種では90~95%が絶滅したことが分かっています.

大量絶滅の原因は,どの大量絶滅でも隕石の衝突や火山活動,それに伴う寒冷化海洋無酸素事変などの状況証拠は得られていますが,そもそもその状況を生み出した根本的な原因は確定されておらず,有力な説にも反論はあります.

例えば,大規模な寒冷化が起こったとします.

ではその寒冷化を引き起こした根本原因は?

大隕石の衝突や,スーパープルームの上昇による大規模な火山活動によって大気が粉塵で覆われて日射量が激減すれば,大規模な寒冷化が起こります.

或いは温室効果の影響で地表温度が上がれば,雨量が増えて陸地から海洋に栄養素が流入して海洋富栄養化が起こり,嫌気性生物の活発化によって大気中の二酸化炭素濃度が上がって海洋に溶け込んで植物プランクトンが大発生することでこれを大量消費し,結果として大気中の二酸化炭素濃度が下がって温室効果が弱まって寒冷化に至る,というケースもあります.

一方,大質量の恒星が崩壊すると,極めて高いエネルギーであって非常に強力なガンマ線が特定の方向に照射されることがあります.これはガンマ線バーストと呼ばれる現象ですが,これが地球から1万光年くらいの範囲内で起こって,たまたま照射方向に地球があった場合,地球に大規模な寒冷化を発生させて大量絶滅を引き起こすのには十分です.

私たち,普段日常で,何千光年先にある年老いた恒星の心配なんかしていないですよね.でも地球や地球生命の命運に大いに関わっていることは間違いありません.

大量絶滅というと多種多様な生物がバタバタと死滅していくイメージがありますが,実際には何万年,何十万年,何百万年をかけて起こるものです.

そのことを踏まえ,現在,私たち人類の活動が環境変動を引き起こす規模であることから多くの生物種が極めて短期間に絶滅に追い込まれている状況にあって,これを以って「完新世大量絶滅」が継続しているという主張もあります.

現在私たちはいま,氷河期(氷河時代)の中にあります.

氷河時代の定義は「地表に巨大な氷床が存在している時代」であって,現にいま,極域には大陸規模の氷河があります.

私たちが「先の氷河期」と呼びがちのものは「ヴュルム氷期(最終氷期)」のことで,現在は「新生代氷河時代」の最近の氷期である「ヴュルム氷期」の後の「間氷期」にある状態に過ぎません.

つまり,本来の地球は,私たちが思っているよりももう少し気温が高いのが「平熱」状態です.

地球には安定した状態が2つあって,一つはこの「平熱」状態,もう一つは地球全部が凍る「全球凍結」の状態であって,現代は不安定な遷移時期にあります.

私たちが思っている以上に,地球は安定しておらず,また安定するとしてもそれは私たちが思っている「安定」ではないということです.

36.2.生命のこと

酸素を吸って二酸化炭素を吐く私たちを含む好気性生物にとって,大気中の酸素は生きるために必須のものであるのでとてもありがたいものです.

まぁでも私たち,吸っているのは大部分が窒素なんですけどね.自覚は無いですけど..一部の細菌窒素固定によって空気中の窒素を利用して窒素化合物を生成しており,植物はそれを利用して生長し,私たち動物は植物を摂取することでこれを得ています.

シアノバクテリア
©吟鳥子(秋田書店)

だから,かつてシアノバクテリアが10億年かけて大気を酸素で満たしたということは,良いことのように見えます.

しかし当時の殆どの生物や,今も嫌気性生物にとっては,酸素は猛毒の物質です.いや,人間など動物にとっても高濃度の酸素は長期的には有毒です.

私たち人類は「自身の活動によって地球環境を壊している」と思うときがありますが,しかしこれ自体が人間のエゴであると言えます.地球の歴史を見れば,生命が自身の活動を維持して繁栄する限りは何がしかの環境破壊が付随するもので,生命現象の宿命と言えるでしょう.これが第2,第3のタイプの生物群によって最小限に留められているに過ぎません.

シアノバクテリアは10億年かけて,大気中の酸素を高濃度にしてしまうという環境破壊を起こしました.実際,このことは原生代の大量絶滅を招き,また全球凍結も招いたと考えられています.

しかし反動は来るもので,それならばと逆に猛毒である筈の酸素を利用して生きる生物が誕生しました.その結果,光合成では得られない大きなエネルギー発生機構を獲得し,自ら動くことのできる生物種が生まれることとなりました.

もし人類がこのまま暴走しても,1億年後に二酸化炭素や窒素酸化物を摂取して繁栄する生物が生まれたとしたら,私たち人類は「よくぞ大気に窒素酸化物を満たしてくれた」「かつての人類の繁栄はまさに地球の神秘」と絶賛されることでしょう.

筆者自身は,積極的に現状を変える必然性はなく,むしろそれは現状にとっては害悪だから,私たちにとっては現状を維持することが現状で最も良い選択肢なので環境への影響は最小限に抑えるべきである,という立場ですので,勿論環境保全に賛成です.

一方で,地球環境について公平公正に客観的に論じる場合には,「私たちを含む地球上のいまの全ての生物が心地良いからという理由で現状を維持すべきだと主張している」というエゴに基いていることを認識した上でなければならないと考えています.

つまり,そのときどきにある存在やその行動は全て意味のあるものであって,全て地球の歴史の中で,全体的な視点で以って何らかの位置付けがなされるべきものです.

それは渦中では見え辛いことが多いので,これを俯瞰する視点が必要となります.

この視点は「宇宙視点」と呼ばれることがあります.

私たちは,特定の権威権力,国々に対してではなく,宇宙に対する忠誠を以って決断しなければならない.

宇宙が私たちを作った.だから私たちは宇宙で生き延びねばならず,宇宙に対してのみ責任を負う.

カール・セーガン博士の言です.

物語においてはネオテニイでもダフネーでも,旧人類でも.

また,人類が地球を出ざるを得なかったことも.

決してある特定の視点からの近視眼的な価値基準で淘汰されるべきものではないということが,本作のテーマの一つとしても込められていると思います.

アラタたちがネオテニイやダフネーの生まれた意味や生きる価値を模索するとき,コクーンの呪縛から解き放たれるのはさて…

36.3.手計算は大切

シミュレーションを行うときは,この複雑な現実の森羅万象の中から,調べたい現象の根幹を成すと考えられる動きを選出して単純化し,これを数式(支配方程式)によって定性的かつ定量的に表現することが必須です.

これを「モデル化」といい,モデル化によって表現されたものを「数理モデル」または単に「モデル」といいます.

モデル化は自然現象に対してだけではなく,人間の活動や社会の動きなどでも有効な手段です.

例えば自動車の運転でドライバーが危険を察知してから停止するまで車はどのくらい進んでしまうのかを調べるとき,「危険を察知してからブレーキを踏むまでの時間差」が状況を大きく左右します.

そこで,「危険を察知する」という「入力」に対して「ブレーキを踏む」という「出力」があるまでの時間差を,制御工学でいうところの「一次遅れ系」として表現します.

このモデルは,夏至は6月なのになぜ8月が最も暑いのか,とか,経済支援に対しての実態経済の反応,とかにも適用することもできます.

たとえコンピュータIoTが発達しても,シミュレーションを行うときには必ずモデルを組み立てる必要があります.

そのためには要となる現象を抽出し,数式で表現し,コンピュータで扱える形に置き換える必要があります.

ここでは「手計算」が最初に必要かつ重要になります.

手計算は大切
©吟鳥子(秋田書店)

あれやこれやとペンを持ってガリガリやるわけですね.

勿論,紙ではなくタブレッド上でも構いませんが,「手を動かす」ことがとても重要です.

工作機械がどれだけ発達しようとも職人の手作業には敵わない,工作機械を作るためには職人が必要であるのと同じように,研究もまた機械やコンピュータは飽くまで支援であって,考えるのは人間です.

もう暫くは,このスタイルが崩れることは無いと思います.

手計算の例

考証でも,シミュレーション前には手計算をやっています.

これは当研究室が参画する「人工流れ星」プロジェクトにおいて,流星源の大気中での運動を極座標系ラグランジュ形式で記述したもので,一番下(画面最右)はこれをコンピュータにかけるときの表現に書き直したものです.

恐らく一般の方には訳の分からない数式だと思われますが,数学のコトバを知りさえすれば,やっていることはそんなたいそうなことではありません.

筆者もこんな感じで,シミュレーション前にはガリガリやっています.

ただ恐ろしいのは,このコクーン社会,紙とペンを使うことが「情報漏洩防止」になるということ.

つまりタブレットでやろうものなら流出の蓋然性があるということですよね.

これはとても高度な監視社会,管理社会…

そのことでいえば私たちの生活でも,IoTやIoEはとても便利なのですが,常に侵入の危険を伴います.

性善説ではとてもやっていけないものですし,使用者全員が一定以上のセキュリティを導入しているとは言い難いので,実はかなりの対策,支援策がない限りはシステム・エンジニアリングの考え方でいえば「成り立たない」ことです.

だから常にクラッカークラッキング対策の闘いが続いています.