epi.28-29
28-29.トラス萌え
今回は第28話と第29話をまとめて解説します.
第28話終盤から第29話にかけてはトラス好きにはたまらない描画が盛りだくさん!
特に第29話の扉絵はトラス構造とゆるふわドレスの剛柔の組み合わせがたまりませんね!!
28-29.1.トラス
トラスとは,三角形を基本単位としてその集合体で構成する構造形式ですが,注意すべきは,三角形の各頂点で構造部材はピン接合されており,自由に回転する点です.
このピン接合によって回転自由度が確保されるために,三角形の頂点が底辺に向かって押されたとき,頂角が大きくなるとともに底角が小さくなり,底辺が両方に引っ張られて広がり,一方残りの2辺は押し縮められ,高さが小さくなる…というような変形をして,荷重に対して構造部材は曲げられることなく,伸び縮みのみによって耐えるものとなります.
実際には,この三角形の各頂点は複数のボルトで留められることで回転自由度が確保されているとも言えない場合が多いです.それでも設計上はピン接合とみなして構造計算することで問題ありません.
構造分野の発展によって純粋なトラスよりも,構造部材を細くしたり少なくしたり,或いはデザインの自由度を広げたりすることが可能となっていますが,やはり東京タワーはそれはそれは美しいトラスの集合体ですね.
ぜひお近くの建物や橋で三角形が集まった構造物がありましたらトラスをお楽しみください.
タワーのような高さのある構造物において,その地面に近い側の呼称としてはいろいろな呼称がありますが,ここでは構造分野でよく使われる「基部」を提案させて頂きました.
身の回りでも,橋を支える橋脚の地面側のことを「橋脚基部」などと呼ぶことが多いです.
28-29.2.ガス切断
金属を切断する場合にはノコギリや回転刃を使うこともありますが,刃物が入らないとか一方からしかアクセスできないとかの場合には「溶断」が用いられることもあります.
溶断にもいろいろ方法があって,レーザーでカッティングするというようなこともありますが,非常によく用いられているのが「ガス切断」です.
ガス切断では,トーチで酸素ガスと可燃性ガスとを混合して噴出させて着火し,その炎で金属を炙って焼き切ります.
そもそも「焼き切る」ことができるのは,高温にした部分の金属原子に酸素原子が結び付いて酸化されることで,ガッチリ結合していた金属原子同士の結合が解かれ,その酸化物をガスの勢いで吹き飛ばすことに因ります.
可燃性ガスにはメタン,プロパンなども用いられることがありますが,日常的に最もよく見掛けるのはアセチレンだと思います.筆者も幼少の頃より,父が工場でよく使っていて,その炎や切断時に飛び散る火花が恐ろしかったものです.
アセチレンは,高校化学で習う「アルキン(水素原子の数が炭素原子の数の2倍から2個少ない,C\(_n\)H\(_{2n-2}\))」の一種で,他のよくある可燃性ガスと比べて高い火炎温度(約3300℃)であることがメリットです.
なお,酸素と可燃性ガスによるガス切断について述べましたが,逆に金属部材の一部を溶かして接合したり,ろう材を使ってろう付けしたりする「ガス溶接」を行うことも可能です.
本作第14話で登場した「覗き窓」は,溶接(またはろう付け)で固定されていることがよく描かれています.
話中ではラクリモサが「東京タワー」の外壁をガス切断で開けようとしています.
彼が背負っている箱の中には,酸素ガスと可燃性ガスの2つのボンベがあり,手にはガス切断で用いられるトーチがあります.
また,このときは「地球極大」の「無重力期」ですので,ラクリモサたちが浮いているだけではなく,ホースやケーブルの漂い方や,トーチや切断箇所から飛び散る炎や火花もまた,微小重力環境下でありそうな状態で描かれていて,吟先生,中澤先生の素晴らしい描画だと思います!
28-29.3.VASIMR
ラクリモサが蓋を開けると,東京タワーの中にVASIMRが現れました.
VASIMRは比推力可変型プラスマ推進機(VAriable Specific Impulse Magneto-plasma Rocket)の略語で,宇宙推進の中でも電気をエネルギー源として推力を得る電気推進の一種です.
宇宙推進については,第13話補講もご参照ください.
H-IIAロケットのロケットエンジンなどで使われる化学推進では,化学反応で取り出せるエネルギーを利用するため,その化学反応で発生する以上のエネルギーは得られません.従って,得られる宇宙推進機の性能には上限があります.
それに対して,電気推進は利用できる電気エネルギーが大きくなればなるほど性能を上げることができるます.
推進機の性能は代表的なものとして,宇宙機の速度を変化させる力となる「推力」と,推進機の燃費ともいえる「比推力」とがあります.そして,ある一定のエネルギーだけを使うとすれば,推力を大きくすると比推力が低くなり,逆に比推力を高めようとすると推力を大きくできない,という反比例のような関係があります.
つまり,あるときちょっと大きな力を発生させたいと思うと燃費が悪くなるということが起こります.
これに対して,第13話にも記載したようにVASIMRではプラズマの生成部と加熱部と加速部が別々になっているため,推力と比推力の両方を(ほぼ)独立して調整することが可能となります.VASIMRの語源はここにあります.
つまり,推力を変化させる調整とともに比推力を高めるための調整も可能となります.これは非常に有効な手法です.
しかしながら,VASIMRの作動には極めて大きなエネルギーが必要となります.
作品ではVASIMRが使える電力を80MW(80メガワット)=80000000W(8千万ワット)として,その他諸々のパラメータを設定し,20年間の0.01m/s\(^2\)での加速と200年間の慣性航行の後,20年間の0.01m/s\(^2\)での減速を行うプロキシマ・ケンタウリまでの超長距離航行を考えてみました.