きみを死なせないための物語 宇宙考証の解説
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推進系の分類

13.推進系のこと

本補講では,ロケットや人工衛星に搭載のスラスタなどの推進系について述べます.

著者のもともとの専門分野ですのでガンバリマス!

13.1.推進系の分類

推進系もしくは推進機とは,ロケットが離昇する際に噴射したり,人工衛星軌道を変えたりするときに利用されるものです.

補講ですので難しい言い方をすれば,「推進機」とは,エネルギーを変換することで時間的・空間的に偏りのある並進力を発生させる「エネルギー変換器」です.敢えて「並進力」と書いたのは,リアクション・ホイールなどのように装置の回転によって角運動量を発生させることと区別するためです.

なお,推進系ではこの並進力のことを「推力(thrust)」と呼びます.

推進機を作動させるためには何らかのエネルギーが必要となります.

そのエネルギーを何に求めるか,そのエネルギーをどう利用するかによって,推進系はトップ画像のように分類されます.

推進系とは何か

13.2.化学推進(CP, Chemical Propulsion)

エネルギーを「化学反応」によって得るものは「化学推進」と呼ばれます.

一般に,持続する化学反応は発熱反応であって,化学反応の際にを放出します.これは反応前と反応後の物質の持つエネルギーを比べると,反応後の方がエネルギー的に低い状態にあるため,反応前後のエネルギーの差の分が顕在化することに由来します.この熱によって化学反応を引き起こすために乗り越えなければならない活性化エネルギーの山を乗り越えることができれば,この化学反応は持続します.

化学推進は,化学反応を引き起こす物質の形態によって分類され,その物質が固体のものを「固体推進」,液体のものを「液体推進」と呼びます.また,固体と液体の複数の物質を組み合わせたものを「ハイブリッド」,化学反応は起こさずに気体(ガス)を,次で述べるノズルによって加速して噴射するものを「コールドガスジェット」と呼びます.

一例として,H-IIAロケットなどで用いられているエンジンでは推進剤として酸化剤酸素を,燃料水素を用い,化学反応として水素の立場での酸化反応,分かりやすく言えば燃焼させることでエネルギーを取り出しており,燃焼後にはが生成します.反応前の水素分子2個と酸素分子1個が持つ物質の化学エネルギー(それぞれの分子内の原子の結合エネルギー)の合計よりも,反応後の水分子2個の結合エネルギーの方が小さいため,その差分が燃焼によって顕在化します.その一部は燃焼を継続させるための活性化エネルギーの分だけ消費され,残りのエネルギーが外界に放出されます.そのエネルギーは電磁波(つまり火炎の輝き)として放射しますが,その一部はすぐに反応後の物質である水分子が受け取り,その結果,高温の水蒸気(気体の水)が発生します.燃焼室容積は変化しないので,高温になれば高圧となります.

水素+酸素→水

さて,化学反応によって高温高圧のガスを得ることができました.

しかしこのままでは,単に大きな熱エネルギーを蓄えた状態,即ち,激しくはあるが乱雑な熱運動を行う分子の集まりに過ぎないため,推進機としては作動しません.推進機として作動させるためには,この分子の運動をある一方向に偏らせることで推力を得なければなりません.

そのような,乱雑な分子の熱運動(熱エネルギー)を一方向に偏った運動(流体運動エネルギー)に変換させる装置が「ノズル」です.

ノズルは一般に,ガスや液体などの流体が流れる流路の断面積が流れ方向に対して変化するものです.

先細ノズルは下流へ行くに従って断面積が小さくなるものであって,これは加熱環境の下で亜音速の流体を加速させる働きがあります.末広ノズルは逆に,下流へ行くに従って断面積が大きくなるものであって,これは冷却環境の下で超音速の流体を加速させる働きがあります.

いま推進機の中の燃焼室には,流速が殆どゼロの高温高圧のガスがあります.

燃焼室の一方にはノズルが取り付けられており,ガスは自身の圧力によって燃焼室からノズルに向かって押し出されて流れ始めます.

まず最初は流速が殆どゼロなので,ガスを加速するために先細ノズルへ流してやります.

やがて流速は音速に達するので,以降を超音速とするために末広ノズルに変えてやります.するとガスは更に加速され,極めて速い流速でノズルから排出されます.

このノズル出口でのガスの運動量の分だけ,推進機,そして推進機を搭載しているロケットや人工衛星に反作用として与えられます.これが推力となります.なお厳密にはノズル出口での圧力と外界(雰囲気)の圧力の差分も推力に寄与しますが,ここでは説明は割愛します.

このような先細ノズルと末広ノズルを結合したノズルを「ラバール・ノズル」と言い,先細と末広が切り替わる部分をスロート(喉部)と言います.チョーク条件と呼ばれる条件を満たせば,流速は必ずスロートで音速となります.このノズルの部分だけを見れば,熱エネルギーを運動エネルギーに変換しているので,「熱機関」の一種であると言えます.

ラバール・ノズルは通常,化学推進で採用されており,ロケットの打上シーンなどでもその一部分である末広部が見えています.

ラバール・ノズル

以上をまとめると,物質中にある化学エネルギーを化学反応によって取り出し,最終的に推進剤に大きな運動エネルギーを持たせて噴射するものが,化学推進ということになります.なお,途中に一旦熱エネルギーを経由するため,熱エネルギーから運動エネルギーへ変換する部分だけを見れば「熱機関」の一種なので,熱エネルギーを経由するものを「熱推進」とも言います.

化学推進のまとめ

13.3.ツィオルコフスキーの式

上記で述べた化学推進における推力の発生は,エネルギー変換のことはさておき,ノズルから排出されたガスの運動量に起因します.

このように,モノを放出することで,その反作用によって推力を得る推進機では,次のツィオルコフスキーの式(ロケット方程式)が成り立ちます.

$$\Delta V = g I_\mbox{sp} \ln{\frac{m_i}{m_f}}$$

ここで \(m_i\) 及び \(m_f\) は噴射前後の宇宙機質量,即ち \(m_i-m_f\) が噴射によって消費された推進剤の質量となります.\(I_\mbox{sp}\) は比推力と呼ばれる推進性能の指標の一つ,\(g\) は重力加速度,そして \(\Delta V\) はその噴射によって得られる宇宙機の速度変化であって,これを速度増分と言い,宇宙ミッションを考える上で最初に必要となる数値となります.

簡単な計算をしてみます.いま \(m_i\)=289tonのロケットが液体酸素液体水素エンジン(\(I_\mbox{sp}\)=440秒)を用いて,推進剤を100tonを消費して噴射するとすれば,この噴射によって得られる速度増分は,

$$\Delta V = 9.8 \times 440 \times \ln{\frac{289}{289-100}} = 1831 \mbox{(m/s)}$$

の加速を行えることになります.なおこれはH-IIAロケットの第1段の噴射に相当します.ただし,実際には地球重力に逆らって上昇する分にもエネルギーが使われるので,第2段目より上の速度が1831m/sになるという意味ではないことに注意してください.

逆に,行いたい宇宙ミッションを達成するために必要な推進剤の質量を求めることもできます.上のツィオルコフスキーの式を \(m_f\) について書き直してやると,

$$m_f = m_i \exp{\left(-\frac{\Delta V}{g I_\mbox{sp}}\right)}$$

となるので,その宇宙ミッションに必要な \(\Delta V\)=4200m/sであって,\(m_i\)=10tonとし,推進系としてヒドラジン二液式のもの(\(I_\mbox{sp}\)=330秒)を用いるとすれば,

$$m_f = 10 \times \exp{\left(-\frac{4200}{9.8 \times 330}\right)} = 2.73 \mbox{(ton)}$$

と求まるので,必要な推進剤質量は10ton-2.73ton=7.27tonとなります.これは,高度数100kmの円軌道に打ち上げられた人工衛星が,自身が有する推進系によって静止軌道まで軌道変更する場合に相当します.最近ではロケットが力強いので,人工衛星自身が有する推進系を作動させる前にロケットによってある程度の軌道変更を済ませることが多く,もう少し重いモノを静止軌道まで持っていくことができます.

13.4.筆者が関わる推進系

ここで筆者の個人的なことを書かせていただきますことご了承ください.

筆者は大学院修士課程までは核融合に関する研究に従事していました.トカマク型核融合実験炉WT-3内で生成されるプラズマの状態を調べるために,そのプラズマからの発光の偏光状態を調べ,これをアライメント衝突輻射モデルと組み合わせることで,炉内の電子の速度分布関数を推定する手法の開発が修士論文となりました.

トカマク型核融合実験炉WT-3

しかしながら幼少の頃より抱いていた宇宙への想い,また高校生のときにある朝突然に降って湧いた啓示のような夢によって宇宙工学へ人生を捧げたい!という決意から,大学院博士後期課程より宇宙推進に関する研究に従事するようになりました.当時の文部科学省宇宙科学研究所(ISAS,現・宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)の電気推進工学研究室において,電気推進の内の電熱加速型推進機であるDCアークジェットの作動モードの遷移について,修士までに培ったプラズマ診断手法を用いて解明することが博士論文となりました.

当時,この研究室では小惑星探査機はやぶさに搭載するイオンエンジンの耐久試験が精力的に行われていました.私はその主流には属さず,細々とDCアークジェットの研究を行っていました.

DCアークジェット

学位取得後は科学技術庁航空宇宙技術研究所(NAL,現・宇宙航空研究開発機構調布航空宇宙センター)において,先駆的推進の内の太陽熱推進に関する研究を行い,また超小型衛星に搭載可能な太陽熱推進系を開発することを行いました.太陽熱推進とは,太陽光を集光鏡で集め,推進機を加熱し,高温になった推進機に推進剤を流すことで加熱,噴射するというものです.今から思えば,太陽熱推進は世界でも競争相手が殆どおらず,やれば論文になるという大変恵まれた分野ではありました.

太陽熱推進

太陽熱推進の研究開発の中で超小型衛星に携わるようになった縁から,とある大学で,画期的な超小型衛星の開発プロジェクトに参加するようになりました.その中で,やはり推進系の開発を担当しました.

PETSAT搭載用推進系

そして現職に至ります.

学生を指導する立場になりましたので研究テーマも衛星アーキテクチャや宇宙利用などにも広げつつ,根幹となる推進系の研究開発も継続していました.そして2014年に当研究室が開発した推進系が2つの超小型衛星に搭載されて宇宙へ旅立ちました.

PETSAT搭載用推進系

現在は,最近世界中でとても盛り上がっている超小型衛星の利用範囲を広げるとともに,いろいろな宇宙ミッションへ多くの人がいろいろな形で参加できることを目指し,安全で使いやすい超小型衛星搭載用推進系の研究開発を行っています.これまでに多くの試行錯誤をして来ましたが,最近ではこれぞ超小型衛星に適した推進系!というものができあがりつつあります.恐らくは私の天命は,超小型衛星搭載用推進系を世に送り出すことであったかな…と考えるようになっています.

PETSAT搭載用推進系

では次に参りましょう!

13.5.非化学推進(NCP, Non-Chemical Propulsion)

非化学推進には,推進機を作動させる元々のエネルギーに化学エネルギーを利用しないものすべてが含まれます.

電気推進(EP, Electric Propulsion)は,電気エネルギーを用いた推進機です.

化学推進では,推進剤に与えられるエネルギーは化学反応によって取り出せる化学エネルギーの範囲内に限られてしまい,推進性能には上限がありますが,電気推進では理論上,幾らでもエネルギーを与えることができます.

電気推進はさらに,電熱加速型,静電加速型,電磁加速型の3つに分類されます.

電熱加速型は,前項のDCアークジェットのように,推進機の燃焼室に相当する部分に電極を設け,アーク放電によってジュール熱を発生させて推進剤にエネルギーを与えるものです.その結果,推進剤は化学推進よりも遥かに高温の10000℃程度にまで加熱されます.その結果,推進性能の指標の内,燃費のようなものに相当する比推力が,化学推進では450秒程度が上限であるのに対して,DCアークジェットでは800秒などにまで達することが可能です.

静電加速型は,代表的なものにイオンエンジン(イオンスラスタ)があります.小惑星探査機はやぶさなどにも搭載されたものです.これはまず推進剤を電気エネルギーによってプラズマにした状態で,2枚の電位差のある電極間に送り込みます.プラズマの内,イオンはこの電位差によって加速され,極めて高速で噴射されます.比推力は数1000秒にまで達します.ただしイオンエンジンは推力が極めて小さく,1円玉を持ち上げられるかどうかというところです.一方,ホールスラスタは比推力は2000秒程度ですが,イオンエンジンとは異なり空間電荷制限則に縛られないため,推力はイオンエンジンの10倍ほどにまで増大させることができます.

電磁加速型は,代表的なものにMPDアークジェットがあります.MPDアークジェットでは推進機内で放電を起こし,そのエネルギーで推進剤がプラズマとなりつつ,推進剤自身が流れることで磁場を生成し,放電による電場との干渉で電磁力が発生して推進剤を加速,噴射するというものです.比推力は数1000秒であって,推力もイオンエンジンより大きなものです.しかしながらかなり大きな電力を必要とするため,実用としては困難が伴っています.また,Pulsed Plasma Thruster (PPT)と呼ばれるものも電磁加速型に属します.PPTはそこそこの推力を発生させることができる上に,その構造などが簡素であるため,超小型衛星に向いているものであると筆者は考えています.

ところで第13話で登場した比推力可変型プラズマ推進機(VASIMR)もまた,電気推進の一種です.VASIMRでは生成部において電磁波によってプラスマを生成し,加熱部においてそのプラズマを電磁波で加熱し,加速部において電磁力によって加速,噴射するというものです.第13話でも述べましたが,筆者は,有人での深宇宙探査が行われるとしたら,恐らくその推進機はVASIMRであろうと考えています.

原子力推進には核分裂型と核融合型があります.

核分裂型は,核分裂によって発生する大きな熱によって推進剤を加熱し,ノズルによって加速,噴射を行うものです.従って熱機関の一種であり,推進剤を高温にしたところ以降は化学推進や太陽熱推進,電熱加速型電気推進と同じです.過去にはNERVAという開発計画がありました.

核融合型は,核融合炉レーザー核融合によって核融合を起こし,その爆発力によって宇宙機を加速するか,或いは核融合によって発生した極めて高温のプラズマを電磁力によって加速,噴射するものです.前者にはオリオン計画があり,後者には他の恒星系を目指すダイダロス計画がありました.比推力は数10000秒などにもなります.

なお,核分裂にしろ核融合にしろ,核エネルギーを電気エネルギーに変換し,それによって電気推進を作動させるというものは原子力電気推進(NEP,Nuclear Electric Propulsion)と呼ばれ,プロメテウス計画などがありました.

レーザー推進やマイクロ波推進は,地上からロケットや宇宙機にレーザーマイクロ波を伝送し,宇宙機内でそれを集光させ,そこに推進剤を流して加熱するというものです.こちらもノズルを使って加速,噴射するか,或いはパルス照射の場合は断続的に発生する衝撃波によって飛翔するものとなります.一時期はとても流行り,ネバダ大学や東京大学で小型の試験機を用いた飛翔実験も行われていました.

電磁波推進や光子ロケットは,強力な電磁波を宇宙機から放射することで,電磁波の量子化である運動量の放出による反作用で推力を得るものです.光子の運動量は極めて小さいため,推力を大きくするためにはとてつもない強力な電磁波を放射する必要があります.SFなどではしばしば登場するものですが,実現は極めて困難であると考えられます.

バザード・ラム推進は,宇宙機の前方に直径数kmの漏斗を備え,宇宙空間に希薄ながら存在する粒子(主に陽子)を集め,これを推進剤として利用するというものです.これは光子ロケットよりも実現は更に困難であると考えられます.

反物質推進は,宇宙機内に反物質を蓄え,物質と反物質を対消滅させることによって生じる莫大なエネルギーや荷電粒子を利用して推力を得ようとするものです.反物質の製造にコストが掛かることやその貯蔵が困難であることが大きな課題となりますが,一時期,ISASでも反物質貯蔵のためのレーザー冷却に関する研究が行われていました.

反重力推進ワープ航法は結構「非科学推進」との境界に近いところにあります.なぜなら反重力やワープといった物理現象が現状の理論では扱えないところにあるためです.しかしながら大きな仮定(負の質量を仮定する,空間のなんたらかんたらを仮定する,など)を設けた上での理論的な研究は行われています.因みにワープ航法では有名な方がいらっしゃって,アメリカ航空宇宙学会(AIAA)などが主催するJoint Propulsion Conferenceというかなり大きな推進系の学会においては,名物講演となっていました.通常,学会は早くて朝8時から発表が始まり,遅くとも18時頃には終わるものですが,この方のWarp Driveに関する講演だけは20時から開始され,アルコールなど持ち込んで聴講するというものでした.

宇宙ヨットには運動量型と電磁プラズマ型があります.なお,これは推進剤を噴射して推力を得るものではないため,ツィオルコフスキーの式は適用されません.

前者の代表はソーラーセイルで,ISASが打ち上げた「イカロス」のように宇宙で極めて軽量で大面積の帆を広げ,太陽光を受けることでその光の圧力を利用して推力を得るというものです.これは一つの有望な深宇宙探査のための推進となり得ます.

後者には磁気セイル磁気プラズマセイルがあります.磁気セイルは宇宙機に磁場を発生させ,磁気プラズマセイルでは宇宙機周辺にさらにプラズマを発生させることで実効的な磁場の範囲を大きくすることで,ソーラーセイルでは実現できないほどの極めて大きな磁場の「帆」を形成し,太陽からの荷電粒子との相互作用によって推力を得るというものです.こちらも深宇宙探査の有望株だと考えられます.

テザーを用いた推進については,第1話でも述べましたが,運動量交換型と電磁力型があります.テザーもまた,ツィオルコフスキーの式は適用されません.

運動量交換型はモーメンタム・テザーに代表され,軌道上に回転するテザーを配置しておき,その一端に宇宙機を接続してテザーの回転の勢いで大きな速度を得て発進したり,逆に高速の宇宙機を上手くタイミングを合わせてテザーで捕獲する,というものです.紐の先に石をくくりつけ,回転させて紐を離すと石は勢いよく飛んでいきますが,これと同じ原理になります.

電磁力型にはエレクトロダイナミック・テザーやベア・テザーがあり,いずれもテザーに電流を流すことで,地磁場との干渉によるローレンツ力を発生させて推力を得ようとするものです.

テザーは実用性よりも学術的な研究要素がいっぱいあるので,結構多くの研究室でシミュレーションなどが行われていますが,幾つかの大学では実際にミニチュア(と言っても全長数100mなど)を軌道上に打ち上げて実証実験を行っています.特に大型の宇宙デブリを廃棄するための手法として有望視されていますが,一方でそのような長いものが軌道上に漂うこと自体が他の衛星や有人宇宙船に対して驚異となり得る可能性も無きにしもあらずです.

13.6.非科学推進(Exotic Propulsion)

お待たせいたしました!非科学推進です.

非科学推進は文字通りならNon-Scientific Propulsion (NSP)などと書かれそうなものですが,実際には学術の世界では「技術的なブレイクスルーというものは何が発端となるかは分からない」という前提から,それぞれの考え方については尊重するため,余程のことがない限りは学会での発表は許可されます(ただし隔離セッションに回される可能性もある)し,それを「非科学だ」などとは決して言わないものです.そのため,非科学推進はExotic Propulsionと表現されることがあります.そしてその略号はEPとなることから,電気推進のEPと掛けて,取り分け使われることが多いです.

だから,「ひかがくすいしん」とか「EP」とか言われて「どっちの?」と尋ねるなんてこともたまにあります.

さて,非科学推進,もとい,Exotic Propulsionにはどんなものがあるかを,筆者が見聞きした範囲で紹介します.最初に言っておきますが,余り多くありません.というか,一つだけの紹介となります.

極端なものを上げれば,念動力,即ち,念じれば飛ぶ,というようなものもあります.ただしこの類は学術の世界では現れず,専らそちら方面の方々による趣味となります.

私が実際に学会で聞いたものは,以下のような感じです.

論理回路があります(はいはい)

これをこうして繋ぐと出力が不定となります(ふむふむ)

これは論理が破綻したと言えます(まぁそうそうだねー)

それは因果関係が破綻したということです(ん…まぁそう言ってもいいかなぁ)

同じことが時空間にも起こります(ん?)

時空間の因果が破綻すると時空間の往来に制限がなくなる(んんん?)

これで宇宙のどこにでも行けます(あー…)

(プログラムを見る.一セッション7講演が全てこの人?座長もこの人?聴講者は…3人…って,会場設営係じゃないか!隔離セッションだ!!退散しなければ!)

(そして部屋を出た.その後何が起こったかは分からない.)

とまぁこんな具合に,幾ら大きな仮定を設けても良いと思います,負の質量だとか空間のなんたらかんたらとか,念力でも良いです,しかしその仮定から辿る道筋には必ず厳密な論理的繋がりがないといけません.つまりこの方,時空間の論理よりも以前に,発表の論理が破綻していたというわけです.

しかしもしかしたら,何か未踏技術を実現するヒントはあったのかも知れない,そう思うと聞いておいても良かったかなとも思いましたが…聞くに耐えかねる内容ではあったので…部屋を出ました.

ということで余り面白くないところで終わりとさせていただきます.すみません.