きみを死なせないための物語 宇宙考証の解説
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コクーンの力学モデル

2.東京コクーンの運動方程式

第2話に関連する補講です.

先述の通り,第2話では宇宙考証に関する部分は余りありませんので,マニア向けに解説します.

2.1.運動方程式

コクーンについて,運動方程式を立ててみます.

地球に繋留されて…という制約はここでは考えず,一般的に軌道上にある2質点が弛まないテザーで接続されているとしてモデル化したを考えます.質点1は系の重心,質点2はコクーンに相当します.

上図に基いて定式化して行きます.質点1及び質点2の質量を \(M\) 及び \(m\) ,位置を \((x_1, y_1)\) 及び \((x_2, y_2)\) とします.ここで中心天体からのそれぞれの質点までの距離を \(r_1\) 及び \(r_2\) とすると,

$$x_1 = r_1 \cos{{\theta}_1},\quad y_1 = r_1 \sin{{\theta}_1}$$
$$x_2 = r_1 \cos{{\theta}_1} + r_2 \cos{({\theta}_1+{\theta}_2)},\quad y_2 = r_1 \sin{{\theta}_1} + r_2 \sin{({\theta}_1+{\theta}_2)}$$

と表されます.

ここで,ニュートンの運動方程式を使おうとすると,非慣性系の場合は慣性力を最初から表現して組み入れる必要があって訳が分からなくなるので,手っ取り早くラグランジュ形式を導入し,ラグランジュの運動方程式を適用します.中心天体の重力定数(万有引力定数に中心天体の質量を掛けたもの)を \(\mu\) とし,系全体の運動エネルギーを \(T\),重力ポテンシャルを \(V\) とすると,位置の1回時間微分速度であることと余弦定理とを用いて,

$$T = \frac{1}{2}M\left( {\dot{x_1}}^2+{\dot{y_1}}^2\right) + \frac{1}{2}m\left( {\dot{x_2}}^2+{\dot{y_2}}^2\right) $$
$$V = -\frac{\mu M}{r_1} - \frac{\mu m}{\sqrt{{r_1}^2+{r_2}^2-2r_1r_2\cos{\left( \pi-{\theta}_2\right) }}} $$

と書けるので,\(r_2\) 方向に非保存力 \(F_d\) が作用しているとすると,ラグランジアン \(L=T-V\) について,

$$\frac{\mbox{d}}{\mbox{d}t} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{r_2}} \right) - \frac{\partial L}{\partial r_2} = F_{d}$$
$$\frac{\mbox{d}}{\mbox{d}t} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{{\theta}_2}} \right) - \frac{\partial L}{\partial {\theta}_2} = 0$$

の運動方程式を解き,幾何学的関係から

$$\cos{\xi} = \frac{r_1\cos{{\theta}_2}+r_2}{r_c}$$
$$\sin{\xi} = \frac{r_1\sin{{\theta}_2}}{r_c}$$
$$r_c = \sqrt{{r_1}^2 + {r_2}^2 + 2r_1r_2\cos{{\theta}_2}}$$

と置けるので,質点2に関しては,

$$\ddot{r_2} = \frac{F_d}{m} + r_2{\left( \dot{{\theta}_1}+\dot{{\theta}_2}\right)}^2 + r_1{\dot{{\theta}_1}}^2\cos{{\theta}_2} - \frac{\mu}{{r_c}^2}\cos{\xi}$$
$$\ddot{{\theta}_2} = \frac{1}{r_2}\left[ -2\dot{r_2}\left( \dot{{\theta}_1}+\dot{{\theta}_2}\right) - r_1{\dot{{\theta}_1}}^2\sin{{\theta}_2} + \frac{\mu}{{r_c}^2}\sin{\xi} \right]$$

が得られます.

あぁ…ラグランジュ形式の如何に美しく,便利なことか!

位置を一般化座標で書けさえすれば慣性力も自動的に出て来るなんて感動モノです.

上式の一つ目の式については,左辺が質点2の \(r_2\) 方向の加速度であって,右辺は第1項が外向きを正としたときの \(r_2\) 方向のテザー巻取・展開のために付加する力による加速度,第2項が遠心力,第3項が質点1の回転に伴う遠心力の \(r_2\) 方向成分,第4項がコクーンに作用する万有引力の \(r_2\) 方向成分です.

上式の二つ目の式については,左辺が質点2の \({\theta}_2\) 方向の加速度,即ちオイラー力であって,右辺は第1項がコリオリ力,第2項が質点1の回転に伴う遠心力の \({\theta}_2\) 方向成分,第3項がコクーンに作用する万有引力の \({\theta}_2\) 方向成分です.

なお,質点1については \(M \gg m\) として同様の手順を踏むことで,質点1は万有引力によって円運動を描くことが導かれます.

コクーン内の重力は,遠心力と万有引力の差異により生じるテザーによる引張力を \(F_t\),テザー巻取・展開のために付加する力を \(F_d\) とすれば,\(F_t + F_d\) となります.

以上の微分方程式を適宜 \(F_d\) を適切に制御しながら解いてやると,「地球降下」に際してのペリジからの距離(Distance from Perigee),降下速度(Descent velocity),コクーン内の重力(Gravity in Cocoon)の時間履歴が得られます.

「地球降下」に際しての時間履歴

また,コクーンのアポジからペリジまでの軌跡を描くと下図のようになります.コリオリ力によって,軌道進行方向に進む向きに位置がずれ,最大で第2段階の途中で4,000km程度のずれとなっています.

「地球降下」に際しての軌跡