航空宇宙システムの利活用

当研究室について

 人類は20世紀初頭から空と宇宙を目指し,今日までにありとあらゆる航空宇宙システムを実現してきました.そしてこれからは,これら航空宇宙システムの真価が問われる時代になります. 我々の研究室では,航空宇宙システムの社会基盤としての側面に着目し,「社会の役に立つ」航空宇宙システム工学の研究に取り組んでいます. 航空宇宙システムを活用し人類社会を発展させること,これが我々の課題です.

 最近は,「航空交通管理」の研究に重点的に取り組んでいます.近年の高性能な航空機がその性能を最大限に発揮できる環境を作ることが,航空交通管理の目的です. 当研究室では,洗練された管理手法を明らかにし,それを我が国の航空交通政策に反映し,さらに世界の空で実現することを目標としています.

飛行時間のばらつきのモデル化

 近い将来、現行の空域ベース運用から軌道ベース運用への移行が計画されています。軌道ベース運用では、3次元の位置と時間の4次元の情報を元に航空機を運航する四次元航法を活用し、すべての航空機の出発から着陸までを一元管理します。この時、ある航空機がどの程度の精度で目的地に到着するのか、ということが予測できるようになると、さらに高度な軌道ベース運用が可能になるものと考えられます。

 そこで、飛行時間のばらつきモデルを理論的に導き、さらにクラスタリングにより実際の運航データを分析し、現実に合うモデルを構築しました。このモデルを用いれば、ある航空機があるウェイポイントに到着する予測時間の不確かさを、任意の気象条件下で正確に求めることができます。管制機関はより効率的で安全な軌道ベース運用ができるようになるものと考えられます。

<参考文献>

Takeichi, N., Yamada, T, Senoguchi, A., and Koga, T, "Development of a Flight Time Uncertainty Model for 4D Trajectory Management," AIAA Journal of Air Transportation, 2020.

Takeichi, N., "Adaptive Prediction of Flight Time Uncertainty for Ground-Based 4D Trajectory Management," Transportation Research Part C: Emerging Technologies, Vol. 95, 2018, pp.335–345.

山田大輝, 武市昇, "飛行時間の機上予測の不確かさのモデリングとその時間管理への応用," 日本航空宇宙学会論文集, Vol. 68, No. 1, 2020, pp.38-46.

混雑空港へ向かう交通流への軌道ベース運用の活用

 軌道ベース運用の重要な活用として、混雑空港へ向かう交通流の管理が挙げられます。現在は管制官により安全に運航されていますが、遠回りや低速飛行などによる調整が行われています。そのため、二酸化炭素排出や騒音といった環境負荷の低減の余地があります。

 軌道ベース運用により、航空機をそれぞれ指定された時刻に空港近くの特定のウェイポイントに到着させることにより、遠回りや低速飛行をすることなく、空港へ向かう交通流を形成することができます。この時、交通流全体の運航コストは、各航空機の指定時刻によって決定されます。当研究室では、生じるであろう遅延時間を交通流の状態に基づき予測することにより、交通流全体の運航コストを最小化できることを示しました。

<参考文献>

Takeichi, N.,"Nominal Flight Time Optimization for Arrival Time Scheduling through Estimation/Resolution of Delay Accumulation," Transportation Research Part C: Emerging Technologies, Volume 77, 2017, pp. 433-443.

混雑空港間の専用空域

 将来の航空機は、機上で周辺の交通状態を把握し飛行の意思決定を行う、自律間隔維持という機能を持つようになります。この機能を用いれば、管制官を指示が無くても他機との間隔を確保することができるようになります。自律間隔維持の機能を持つ航空機だけが飛行できる空域で、交通量の多い空港や都市圏間を接続するコンセプトはフローコリドーと呼ばれます。

 当研究室では、福岡から東京までの飛行経路にフローコリドーを導入することを想定し、実運航データを用いて便益を評価しました。フローコリドーを利用できる航空機は、目的地まで最小の運航コストで到着することができます。一方、フローコリドーを用いることができない航空機にとってはフローコリドーは大きな障害物になるので、遠回りをして回避しなければなりません。そのため、運航コストが増加してしまいます。評価の結果、大型機の一部が自律間隔維持を導入しフローコリドーを利用することにより、空域全体で生じるコスト増加よりも、大きなコスト減少を達成できることを明らかにしました。現在はさらにより多くの便が利用できるような経路構成のコンセプトを研究しています。

<参考文献>

Takeichi, N., Yamamoto, S., Morooka, Y. and Harada, A., "Potential Cost-Benefit Analysis for the Assessment of Air Corridor Installation into Japanese Airspace," Winter Simulation Conference 2018, December 9-12, Gothenburg, Sweden, 2018.

小型無人機や空飛ぶ自動車の交通管理

 都市圏上空をたくさんの小型無人機(ドローン)や、空飛ぶ自動車(Urban Air Mobility:UAM)が飛び回る時代がやってくるでしょう。当然、それらを安全かつ効率的に運航するためのルールが不可欠です。ドローンの交通管理は無人機交通管理(UAV Traffic Management:UTM)と呼ばれます。当研究室では、より多くの小型無人機を運航できるような交通ルールや、安全にUAMを飛ばせるUTMの交通ルールを研究しています。

 また、本学ではキャンパス内でドローンの飛行実験ができます。当研究室では、実験用ドローンを開発し各種飛行実験を実施しています。

<参考文献>

Kaida, R., and Takeichi, N., "Traffic Capacity Increase in Layered UTM Airspace through Traffic Rule Improvement," Asia Pacific International Symposium on Aerospace Technology, Gold Coast, Dec. 4-6 2019.