About ORBIS





超小型衛星「ORBIS」誕生の背景

ORBISは第18回衛星設計コンテストで設計大賞を獲得したのをきっかけに,首都大学東京宇宙システム研究室で2011年から開発が始まりました.現在はMEXT-ORBISのチームメンバーとともに開発を進めています.



天文観測は地上望遠鏡や大型衛星でないと出来ない?!?


天文観測の手段としての大型衛星や地上望遠鏡は,近年多様化・高精度化が進んでいます. しかし,大型衛星による観測は感度こそ高いものの国家主導の非常に大きなプロジェクトであるため,厳しいプロポーザルを勝ち抜きかつ特定の天体に対する十分な観測時間を確保することは困難です.また,軌道上の全天観測ミッションでは,観測時間は確保出来る一方で大型観測衛星ほどの感度を達成することは出来ません.これらに加えてさらに価格という観点も踏まえると,「十分な感度を持ちつつ占有性,専従性も両立したミッション」を比較的低価格で実現する手段は未だ確立されていないと言えます.



ORBISのコンセプト


現在の天文観測手段

そこで,当チームではこの現状に着目し,「占有性」,「短期開発」,「低コスト」が強みである超小型衛星を高精度化,汎用化し右図の真ん中の領域を実現することで,これまでにない新たな理学観測の手段が生まれると考えています.
具体的には,大型衛星などでは選ばれることのない,

  • 長期間継続した観測を必要とする

    天文現象の観測

  • 理論上でしか確認されていない天体,

    天文現象の観測
 

このようにある程度リスクを含む挑戦的な理学ミッションを担うことができる存在を目指しています.





ORBISプロジェクトの2つの特徴
  

Ⅰ.超小型衛星による理学観測


超小型衛星による理学観測

超小型衛星の理学利用はまだまだ身近なものとはいえません.しかし,大型衛星に比べて低コストかつ高頻度で複数機の打上げが可能である超小型衛星は,性能の面においても近年大きな発展を遂げており,天文学のための手段としても十分に利用可能であるといえます.


また,従来の大型衛星が一つのミッションに専念する場合,必ず何かしらの成果が得られるリスクの低いミッションを選ばざるをえませんでした.しかし,比較的低コストの超小型衛星では,暗い天体を観測し続けることや,理論上でしか確認されていない天体や天文現象を探査するなど,ある程度のリスクがあってもユニークなミッションに挑戦することが出来るのです.また,大型衛星より短期間で開発できるため,高頻度で複数機の打上げ(シリーズ化)も可能になります.




  

Ⅱ.バスシステムの汎用化


超小型衛星は大型衛星に比べて低コストで短期開発が可能なため,高頻度で複数機の打上げが可能です.バスシステムを汎用化できれば,ミッションが変わる際もミッション部のみを開発し直せば良くなるため,更に低コストかつ短期間で開発することができるようになります.そこで,当チームでは次の2つの技術を採用しました.

<標準バス>

標準バスのシステムブロック図

各系は同一の基板を用いてバスに接続しており,同じくバスに接続している共有系(Co-ownership system)とのみ通信を行います.データのやり取りを共有系とのみにすることで,各系独立した開発することが可能になり,従来の1つのマイコンで制御する方式と比べて, 開発コストと期間を低減することが期待できます.また,後継機開発時に各系の機器やプログラムの更新を必要最低限の再開発で済ませることが可能になります.(短期開発,信頼性の向上)




<ミッションボックス>

ミッションボックス

従来の超小型衛星は,大きさを小さくすることにより短期開発,低コストを実現できるものの,単位質量あたりの開発コストはまだまだ高価なのが現状です.その原因はミッションに合わせてバス部を最初から設計しなおすためだと考えられます.そこで当チームでは,予めミッション部にミッションボックスという形で制限を設けることでバス部の設計を固定します.そうすることで,2号機以降の開発をより短期化,低コスト化することを目指しています.



このような汎用化技術により,天文学をはじめとする理学の方々にとっても手軽に超小型衛星を利用できる未来を目指して,汎用型の超小型衛星の開発に挑戦します.










汎用型の超小型衛星,初号機「ORBIS」

ORBIS

その超小型衛星の初号機として当チームではORBIS(ORbiting Binary black-hole Investigation Satellite)と題した衛星の開発を進めています.ORBISは,重量50kgながらもX線によるバイナリブラックホールの観測という挑戦的な理学観測をミッションとしており,超小型衛星による継続的な理学観測の実現可能性を示すことを目標に掲げています.




ORBISのミッション「バイナリブラックホールの観測」



連成するブラックホールのペア,すなわちバイナリブラックホールはいくつか候補は見つかっているものの未だ長期的な観測による裏づけがされていません.理由は大きく2つに分けられるでしょう.1つ目は衛星内のミッションの占有性の問題です.バイナリブラックホールは非常に遠い天体で,弱いX線の周期的な変化を高感度のX線観測装置で長期的に観測する必要があります.そのため既存の宇宙望遠鏡を占有し観測すべきですが,実際には予算や他の観測対象との兼ね合いでそのような大型の宇宙望遠鏡は占有が難しいといえます.もう1つは,あまり得体が知られていないものの探査であるため投機的な側面が大きく,大型衛星のような巨大プロジェクトでの運用はリスクが大きいことです.しかしながら,超小型衛星を用いることで占有性とコストの低さを確保することで,これらのデメリットを低減させることができます.

これらの観点から,BBHの観測は超小型衛星ならではの貢献が望まれるミッションであると言えるでしょう.






バイナリブラックホールとは?

バイナリブラックホール

ORBISのミッションは,バイナリブラックホール(Binary Black-Hole)略してBBHを観測することです.ブラックホール(BH)は知っていても,バイナリブラックホールは聞いたことがないという人がほとんどでしょう.バイナリブラックホールを一言で表すと,“互いの重力で連成し回転しているブラックホールのペア”のことです.


そもそも,ブラックホールってどんな天体?


ブラックホールは,非常に大きな重力と質量を持つ天体です.光さえも脱出できないその重力で周囲に吸い寄せた物質のリングである降着円盤をまとい,X線やγ線などの宇宙線を光速に近い速度で放射している黒い球体のような姿...皆さんが想像するブラックホール像とほぼ一致するのではないでしょうか.

ブラックホールは近年では質量ごとに分類されており,中でも太陽質量の数百倍以上の規模を誇る特に質量の大きいものは大質量ブラックホールと呼ばれます.大質量ブラックホールは大抵が銀河の中心部の強力なX線源として観測されます.比較的身近なところでは,地球から射手座の方角に見える天の川銀河(銀河系)の中心部付近にも強力なX線源が観測されています.現在では,多くの銀河の中心部には大質量ブラックホールが存在すると考えられています.


バイナリブラックホール


一方遥か彼方,数億光年の場所にある活発な天体からもX線は観測されています.遠い天体ほど宇宙の過去の光を見ていることになるため,遠方の活発な天体たちは宇宙の構造の進化を解き明かす上で非常に重要な観測対象です.そういった遠方の天体は大半が若い銀河の姿であるとされ.そのX線の源とされるのもまた,大質量ブラックホールです.どのようにして若い銀河たちが現在のように大きく成長していったのかというシナリオの上で,欠かすことができないのが銀河とその中心部の大質量ブラックホールの合体の過程です.すでに合体途中の銀河は多数発見されており,銀河同士が合体成長することは確かであるとされます.このように,「銀河同士の合体成長に伴いブラックホールが衝突・合体する過程で,互いの重力で連成し回転しているもの」を「バイナリブラックホール」と言います.ブラックホール同士が連成することで連星系全体が周期的なX線の光度変動を示すと考えられています.





   バイナリブラックホールイメージ画像 引用:「バイナリ―巨大ブラックホール探査に向けて」早崎 公威