電源系



1. 役割

通称EPSと呼ばれています.Electric Power Subsystem(=電源系)の略称です.人工衛星が宇宙で機能するためには,電力を供給する必要があります.その電力供給を掌るのがEPSです.

宇宙にはコンセントがありません.しかし,見渡せば燦然と輝く太陽がそこにはあります.そこで人工衛星では太陽電池パネルを搭載し,太陽光によって発電された電力を使用します.また,太陽光が人工衛星に当たらない時(蝕時)は,あらかじめ太陽光発電によって充電されたバッテリから電力を供給します.

このようにEPSでは各機器への電力供給やバッテリーの充放電などの電力制御を管理しています.

電力が供給されなければ人工衛星は機能せず,ミッションを行うことはおろか,所在や安否を確認することすらできません.したがってEPSは重大な責任を担っています.

宇宙空間という過酷な環境において,人工衛星の各機器に電力を血液のごとく送り届ける心臓,それこそがEPSです.




2. ORBISのEPS設計

 2.1 太陽電池パドル展開

ORBISではミッションの実行において十分な電力を確保するため,図1のように太陽電池パドルの展開機構を採用しています.展開した太陽電池パドル面を太陽方向に向けることで,太陽電池を衛星側面に取り付けた場合よりも大きな電力を発電することができます.



図 1. 太陽電池パドル展開機構



 2.2 蝕時の電圧安定化

太陽電池を用いた人工衛星では,日照時に太陽電池とバッテリの電圧をバス部に供給し,蝕時にはバッテリ電圧のみをバス部に供給します.したがって,日照時よりも蝕時の方がバス部に供給される電圧が小さくなります.このような状況下で電圧の昇降圧機器を用いて蝕時でも日照時と同じ電圧をバス部に供給する方式を安定化バス,蝕時に電圧制御を行わずバッテリ電圧のみをバス部に供給する方式を非安定化バスと言います.

一般に,電圧の昇降圧機器を実装した安定化バスの場合,電源回路が複雑になることによるコスト増加や重量増加が懸念されます.汎用化を目指すORBISにとっては電圧の昇降圧機器を実装せず電源回路の簡略化を図ることの方が有利になると考え,非安定化バスを採用します.



図 2. ORBISで想定するブロック図



 2.3 日照時の電力安定化

日照時には太陽光の当たる角度や部分的に蝕になるなど,太陽電池の電圧と電流は常に一定ではありません.このような状況下で太陽電池の効率の良い発電を目指しORBISではMPPT(Maximum Power Point Tracking)制御を採用します.MPPT制御は太陽電池の電圧,電流から電力を計算し,最大電力を引き出すために動作点を自動調整する電力制御方式です.この制御機能を持つ素子を実装することによりMPPT制御を実現します.



図 3. MPPT制御方式の概要



3. 3. ORBISの電力量収支シミュレート

ORBISの軌道高度は550[km]で軌道傾斜角31°です.1日(86400秒)でこの軌道を16周します.以下の図4のようにある1日の電力量収支をシミュレートしました.設定した放電深度内で電力量がマイナスになっていないことを確認できます.



図 4. ある1日の電力量シミュレート