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研究テーマ

①新たな感染症に備える新検疫システムの開発

近年、新型インフルエンザの大流行(パンデミック)や新たな感染症に備え、新たな検疫システムの開発が重要視されています。

時間のかかる従来の検疫では、成田のような大空港で全員を調べることができないのが現状です。海外からの帰国時には、感染症防止のため健康状態を自己申告することが義務付けられていますが、この申告を客観化でき、かつ大人数に対応できるシステムが必要であるとの検疫所からの要請に応え、感染症で発熱している人を短時間で検知するシステムを発案しました。

発熱はサーモグラフィーだけでもわかりますが、その際に飲酒、日焼けなどの影響を受けてしまうという弱点があります。呼吸や心拍の変化を正確に捉えることができれば、感染症にかかった人の発見はより正確になります。そこでマイクロ波レーダーで手のひらの血管の微妙な動きを検知して脈を測定し、かつ腹部の動きで呼吸を測定することによって感染症の症状を検知する装置を開発しました。この新装置は、体温、脈拍、呼吸数を同時にわずか5秒で測ることができます。非接触型の検知システムであるため、測定の際のさらなる感染防止にも貢献できます。

従来のタイプのスクリーニングシステム(画像1)に加え、現在は機内でのスクリーニングを可能にするポータプルタイプ(画像2、3)を開発しています。また、同じくポータブルタイプの臨床応用型・感染症スクリーニングシステムKAZEKAMO(画像4)は、現在複数の医療施設に設置中です。これらポータブルタイプのシステムは、インダストリアルアートコースの金研究室と連携して、デザイン性に優れたものとなっています。



画像1 従来のスクリーニングシステム


画像2 ポータブルタイプ A(金研究室と共同開発)



画像3 ポータブルタイプ B(金研究室と共同開発)



画像4 臨床応用型・感染症スクリーニングシステム KAZEKAMO
(金研究室と共同開発)


画像5 オリンピックをイメージして開発したスタンド型スクリーニングシステム KAZEKAMO-tachi

関連論文

Sun G, Saga T, Shimizu T, Hakozaki Y , Matsui T
Fever screening of seasonal influenza patients using a cost-effective thermopile array with small pixels for close-range thermometry.
International Journal of Infectious Diseases, 2014. (in press)

Nguyen VQ, Sun G, Matsui T, et al.
Rapid screening for influenza using a multivariable logistic regression model to save labor at a clinic in Iwaki, Fukushima, Japan
American Journal of Infection Control, 2014. (in press)

Matsui T, Hakozaki Y, Suzuki S, Usui T, Kato T, Hasegawa K, Sugiyama Y, Sugamata M, Abe S.
A novel screening method for influenza patients using a newly developed non-contact screening system.
J Infect. 2010 Apr;60(4):271-7.

Sun G, Hakozaki Y, Abe S, Vinh NQ, Matsui T.
A novel infection screening method using a neural network and k-means clustering algorithm which can be applied for screening of unknown or unexpected infectious diseases.
J Infect. 2012 Dec;65(6):591-2.

②心拍数変動指標(Heart rate variability)を使ったストレスの非接触型測定・

精神負荷に対する自律神経の過渡応答を用いた客観的うつのスクリーニング法の研究

現代はストレス社会といわれています。ストレスを客観的に測定することは、ストレスに適切に対処していく上でも役立ちます。

自律神経は、緊張により活性化する交感神経と、リラックスすることで活性化する副交感神経によって成り立っています。当研究室では、ごく弱い電波を出す小型のマイクロ波レーダーを用いて、直接人に触れずに自律神経の活性度を測るシステムの研究を行っています。交感神経の緊張は、血液中のアドレナリンの量を測ることである程度推定できます。しかし、採血してアドレナリンを測ること自体がストレスになりかねませんし、手軽にできることではありません。一方、採血せずに自律神経の緊張(活性度)を測る方法として、心電図から心拍間隔のゆらぎ(心拍数変動指標)を求める方法があります。この方法は採血する必要がなく、脳の視床下部にある自律神経中枢の緊張を知る有力な手がかりです。

しかし実際に心電図を会社のデスクや車の運転中に測るとなると現実的ではありません。そこで、当研究室では直接人に触れずに、服の上から自律神経の緊張に伴う心拍間隔のゆらぎを測る方法を研究しています。また、この方法はストレスを測るだけでなく、覚醒度の低下に伴う自律神経、特に副交感神経の活性度評価にも使うことができます。

誰でも食後に眠気を覚えることがあります。これは、副交感神経が活性化することによって生じます。つまり、覚醒度が落ちるときには副交感神経が活性化しますので、この方法で副交感神経の活性度をモニターすることで、作業時や運転時などのいねむり事故予防への応用も期待されます。

現在はこのシステムを応用し、ストレスをはかる椅子(画像5)、うつ傾向を計測するスマートフォンのアプリ"Utsukamo"(画像6)(串山・馬場研究室と共同開発)に取り組んでいます。


画像5 ストレスをはかる椅子。
座りながら長時間、ストレスをはかることができる。



画像6 スマートフォンでうつ傾向を判定するアプリ Utsukamo
スマートフォンの内蔵カメラを使い、脈拍を計測する。

→Utsukamoのウェブサイトへ

精神負荷に対する自律神経の過渡応答を用いたうつのスクリーニング法の研究を精神科医の榛葉客員教授、電気通信大学の孫助教と共同で行っています。うつの主観評価指標であるSDSスコアと精神負荷に対する自律神経の過渡応答から求めたロジステイック判別分析のロジットスコアの間に相関が認められ、うつ患者のスクリーニングにおいて80%程度の感度と特異度が得られています。このような視点によるうつの客観的評価法の研究を行っているのは国際的にも私たちの研究グループだけです。

 

関連論文

Sun G, Shinba T, Kirimoto T, Matsui T. An Objective Screening Method for Major Depressive Disorder Using Logistic Regression Analysis of Heart Rate Variability Data Obtained in a Mental Task Paradigm. Front Psychiatry. 2016 Nov 4;7:180.

Suzuki S, Matsui T, Imuta H, Uenoyama M, Yura H, Ishihara M, Kawakami M.
A novel autonomic activation measurement method for stress monitoring: non-contact measurement of heart rate variability using a compact microwave radar. Med Biol Eng Comput. 2008 Jul;46(7):709-14.

Matsui T, Arai I, Gotoh S, Hattori H, Takase B, Kikuchi M, Ishihara M.
A novel apparatus for non-contact measurement of heart rate variability: a system to prevent secondary exposure of medical personnel to toxic materials under biochemical hazard conditions, in monitoring sepsis or in predicting multiple organ dysfunction syndrome.
Biomed Pharmacother. 2005 Oct;59 Suppl 1:S188-91.


③睡眠時の生体情報を取得する安否確認システムの開発

体に何もつけず、ベッドに寝るだけで無呼吸の有無、中枢性無呼吸と閉塞性無呼吸の判別に成功

高齢者福祉施設においては、限られた当直職員による毎時数回程度の頻繁な夜間巡回が行われています。夜間巡回が職員に与える負担は大きく、また目視によって入居者全員の安否を完全に確認することは容易ではありません。

本研究では、介護用ベッドのマットレスの下に、電波法に準拠した10mWの微弱電波を用いた24GHzの超小型のマイクロ波レーダーを2台(ノイズリダクションのため)装着し、連続的にベッドにいる高齢者の呼吸、心拍に伴うシグナルを計測し、独自に開発中の解析ソフトウェアを用いて、リアルタイムでバイタルサインとして呼吸数、心拍数を表示します。

本システムは電極を装着する必要が無いので、患者に負担をかけないバイタルサインモニターにより、ハイリスクな高齢者福祉施設入所者や在宅被介護者の他、急性期を脱しベッドサイドモニターの監視から離れた入院患者のモニターが可能になります。心肺停止や異常な値を示した際には、自動的にナースセンター、コールセンター等に知らせます。このシステムを用いて高齢者の安否確認を行うことで、目視と比較して安否確認の精度が高まり、頻繁な夜間巡回の軽減が可能となります。将来的にはICTの活用により、一人暮らしの高齢者の安心した自立生活をサポートするため、見守りシステムのネットワークサービス実用化を目指しています。

また、睡眠時の無呼吸診断においては、非常に拘束性の高いポリソムノグラフィ検査が従来の方法ですが、呼吸、心拍の非接触測定技術の実用化によって、身体的負荷・経済的負荷の少ない検査方法の道も開けるなど、実用化の可能性は多岐に渡っています。





関連論文


Kagawa M, Tojima H, Matsui T. Non-contact diagnostic system for sleep
apnea-hypopnea syndrome based on amplitude and phase analysis of thoracic and abdominal Doppler radars. Med Biol Eng Comput. 2016 ;54(5):789-98.

Matsui T, Yoshida Y, Kagawa M, Kubota M, Kurita A.
Development of a practicable non-contact bedside autonomic activation monitoring system using microwave radars and its clinical application in elderly people. J Clin Monit Comput. 2013 ;27(3):351-6.